妻がマルチ商法にハマった体験談を読んでみた

嫁と大喧嘩した
http://anond.hatelabo.jp/20130319132458

はてなブックマークでは折りしも、妻がマルチ商法にひっかかった男性の体験談が注目を浴びていました。

この人は「薬事法違反」というのを決め手にして、妻をひとまず宥(なだ)めることができたみたいですけど、現実にはそうやって法律を持ち出しても説得できないケースのほうが多いと思います。

警察や消費者センターに相談したところで、こういうのはぜんぜん助けてくれないし、しかたなく弁護士に相談したところで、本人が《自由意思》でやっている行動を止めさせるのは不可能でしょう。*1



やっぱり非難のポイントがズレていた

ブックマークのコメントには、疑似科学似非科学という観点から非難する声が目立ちます。
しかし、マルチ商法の場合、そこに悪の本質があるわけではありません。

第一に、本社がわざわざ薬事法違反の広告を打ちだすというリスクを冒さなくても、会員たちのグループや末端販売員が勝手にそういう宣伝を広めてくれるからです。
つまり、マルチ商法の会社は、けっして自分たちの手を汚さず、下っ端の連中を駆りたてて薬事法違反させています。*2
ですから、トンデモな疑似科学だろうと、薬事法に違反していようと、そんな批判は本社にとって痛くもかゆくもありません。「それらはぜんぶ会員たちが勝手に言いふらしたこと。本社が言ってまわったわけじゃないから責任はない」という建前になっています。

第二に、マルチ商法疑似科学と切っても切れない関係にあるけれど、仮にどれだけ品質がよい製品であろうと、それは手口がマルチ商法かどうかと無関係だからです。
逆に、なまじ品質が良かったり、値段がまあまあ常識的だったりすることが、マルチ商法に足を踏み入れるきっかけになることも珍しくありません。

第三に、マルチ商法には止められなくなる依存性があるからです。
疑似科学の宣伝にだまされて商品を買わされた」というだけなら、被害はそのときかぎり一過性の金銭ですむでしょうが、マルチ商法では継続してその商品・商売にすがることになります。
依存がひどくなると、マルチをやるために家族を捨てるだろうし、離婚や破産すら厭わないと考えだすのです。

以上の3点、詳しくは私が先日に書いたエントリを参照してください。

マルチ商法の本質 〜自己啓発マインド・コントロール
http://d.hatena.ne.jp/MultiHigai/20130308

ブックマークを読んで思ったことなど

id:kuroyuli
数年、数ヶ月がかりじゃなくて、一晩で洗脳を解いた増田の才能はすごい。マルチ脱会を職業にすべきレベル。

id:gettoblaster
洗脳を解くノウハウを共有したいですね。今は奴らの技術に負けていると思う。

id:sawarabi0130 悪徳商法, 洗脳, 宗教
こういう悪徳商法を強制排除できる仕組みが必要。消費者生活センターが役立たず過ぎる。

id:Sato_4tree ネタ
マルチなー…中学の友人に勧められた時に『それマルチでしょ』みたいに言ったけど、聞く耳持たなかった。知ってる人からすればなんでひっかかるのって感じなんだけど、ハマってる人を連れ戻すの難しいよなぁ…

本当にそのとおりだと思います。今の日本社会は、マルチ商法の被害者(とその家族)があまりにも無力です。
こういうときに相談できる専門機関がないし、多くの場合、弁護士に頼んだところで打つ手がありません。

私もいざ自分の身内が被害に遭ってしまってから事の重大さに気づき、今更こんな文句を言うのは虫がよくて恥ずかしいですが、マルチ商法に対する世間の無理解・無関心はひどすぎると思います。
悪徳商法=お金をだましとられる」というふうに見なしておられる方が多いと思いますが、それだけじゃなく、マルチ商法には依存症とよぶべき心の問題があることを理解してほしいです。

おそらく、被害者の家族は、マルチでだましとられたお金を取り返すことなんかより、身内をその依存症から脱却させたいと願っているのではないでしょうか。少なくとも私はそのつもりでいます。
本人がそのマルチを好きでやっていると強弁するかぎり、反省せずに同じことをくり返すだろうし、問題は何一つ解決しないのです。*3

カルト宗教に入ってしまった人が、自分の財産をすべて教団に寄付して、そのうえ借金を背負って、家族のもとにぜんぜん帰ってこなくなったとしても、本人がそれを好きでやっているのなら止めることはできません。マルチ商法はそれと同じです。
家族や友達がどれだけ心配してやめてくれと頼んでも、本人がそれを了解してくれないかぎり、むりやりマルチから引き離して足を洗わせることなんてできません。

カルト宗教への対策には「脱会カウンセラー」というものがあるそうですが、マルチ商法に依存してしまった人たちにも、この手のカウンセリングによる支援が必要になるだろうと思います。
家族だけでは、とても手に負えない問題です。*4


id:ysync
ああ、化粧品は本格的に強い。男的に触れにくい部分すぎる。良い物だとしたらマルチまがいな売り方してるのはオカシイという方向での説得しか無さそうだ。他人を巻き込まないようにするのが精一杯かもしれん。

私にはこの発想がなかったけれど、ものすごく慧眼だと思いました。
化粧品というと、たしかに男性からは口出ししにくい分野でしょうし、かりに女同士だとしても、年の差があると説得するのが難しくなりそうです。
若い女性から見れば、年を食った女性の価値観なんて、ださくて時代遅れに映るでしょう。とくに美容やファッションともなれば、母親が何を言おうが反発されて、娘は聞く耳をもたないなんてことがよくあります。


id:white_cake
奥様には「夫は私を信じてくれない。否定ばかり」とゆー思いが根本にありそう。だから友達に認められたと感じて歓喜。結果さらに夫からの信頼を失うような愚行に走ると。負のスパイラルは断ち切るのむずい。

id:kataage_bp
人は心が満たされていれば、そんなモノには嵌らない。「嫁はアホ」と決めつける前に、普段の夫婦生活を一度振り返ってみてはどうか。

id:pollyanna
増田も配偶者を「叱る」人なんだなあ /メシマズ嫁まとめとか見ていてもそうだけど、庇護しなきゃならない系の妻たちと、それを「叱」ったり「やめさせ」たりしたがる夫たちとの関係性に、何か共通点がありそうで。

おっしゃるとおり、心がさびしくて不満があったから、夫婦関係が良好じゃなかったから、それゆえに増田の妻がマルチ商法にハマッたという要因はあるかもしれません。

しかし、そうやってこの夫婦の自己責任と見なす態度は、マルチ商法で儲けている会社の思うツボじゃないでしょうか?
*5

私の身内や増田の妻のことはともかく、程度の差はあれ、自分の家庭生活に満足しきっている人はいないと思います。もし家庭のほうにあまり不満がないとしても、それ以外のところで何かしら不満があるでしょう。
なので、どの家庭からでも被害者が出てくると覚悟しておいたほうがよいです。各家庭でそれぞれ予防や救済に取り組むのは結構ですが、これはもっと大きな社会問題として認知してほしいと思います。

*1:自由意思という言葉に括弧をつけたのは、無論、それがマインド・コントロールによって歪められたものだからである。

*2:現にこの増田がリンクを貼って晒しているブログも、個人経営でどこぞの美容院をやっているヤツ(たぶん会員の一人)が、無断で好き勝手しゃべって商品宣伝をしているにすぎない。そのブログに載っている「松下電器の開発チームが、分解して、真似しようとしてもできなかった逸品」という説明だって、本社・IPS生命科学研究所のほうでは必ずしも公式にこれを豪語しているものではなかろうと思う。

*3:マルチ商法のなかでも比較的ゆるい感じでやっているところはあるから、その場合、この増田みたいに妻が使えるお金に制限を設けることによって、時間をかけて様子見をしつつ、徐々に説得して止めさせるしかないだろうとは思った。これがカルト宗教のマインド・コントロールと同じだとすれば、いかに家族を心配してもどかしく感じられたとしても、手荒なやり方で強引にせまって止めさせるべきでない。それはかえって信頼関係を壊すだけで逆効果になる。本人みずからが気づくことが大事。

*4:説得するのに、家族同士(特に親子)では心の距離が近すぎる。依存が軽ければそれで成功するかもしれないが、きつく言って注意すればするほど、かえって反発を引き起こしてしまうことがある。また、周囲のほうが驚いて不安のあまりパニックに陥り、頭ごなしに否定してかかるなどの対応をとって、そのせいで事態をこじらせてしまうケースもある。

*5:もちろん、これらの方々のコメントは、自己責任だと言いはなって被害者を切り捨てる意図ではなく、増田の妻を救出するためにアドバイスをしているのかもしれない。だから、私もとりたてて非難のつもりでこれを書くのではない。あしからず